大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 平成5年(ワ)3239号 判決 1994年10月14日

原告

山上信子

ほか一名

被告

有限会社大商運輸

ほか一名

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告らは、連帯して、原告山上信子に対し金一五〇〇万円、同山上成美に対し金一五〇〇万円及びこれらに対する平成四年三月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、交通死亡事故被害者の遺族からの、加害車両運転者に対する民法七〇九条、加害車両保有者に対する自賠法三条に基づく各損害賠償請求事案である。

一  争いのない事実など(証拠上明らかに認められる事実を含む。)

1  事故の発生

(1) 発生日時 平成四年三月一日午後九時四〇分ころ

(2) 発生場所 兵庫県三木市加佐一一八番地先路上(以下「本件道路」、「本件事故現場」などという。)

(3) 関係車両

<1> 訴外山上幸治(以下「亡幸治」という。)運転の第一種原動機付自転車(三木市す二六六、以下「原告車」という。)

<2> 被告大森政己(以下「被告大森」という。)運転、被告有限会社大商運輸(以下「被告会社」という。)所有の大型特別貨物自動車(岡一一き三四九二、以下「被告車」という。)

(4) 事故態様

本件事故現場において、被告車が対向車である原告車と正面衝突したもの

(5) 事故の結果

亡幸治は本件事故により、脳挫傷、肺挫傷、左上腕骨骨折の傷害を負い、同日午後一〇時二五分死亡した。

2  責任原因

被告会社は、本件事故当時、被告車を所有し、これを自己のために運行の用に供していたものであるから自賠法三条に基づき、損害賠償責任がある。

3  相続(甲一の1ないし4)

原告山上信子(以下「原告信子」という。)は亡幸治の妻、原告山上成美は亡幸治と原告信子間の子であり、他に相続人はいない。

二  争点

1  被告大森の過失責任、被告会社の免責

(1) 原告ら

被告大森は、被告車を運転して本件道路をセンターラインを越えて進行した過失により本件事故を発生させたものであるから、民法七〇九条により、本件事故によつて生じた損害を賠償する責任がある。

(2) 被告ら

被告大森の過失は否認する。

本件事故は、原告車が対向車線に進出したため、被告車と正面衝突したものであり、亡幸治の一方的過失による事故である。また、被告車には構造上の欠陥又は機能の障害はなかつた。

2  損害額

第三争点に対する判断

一  被告らの責任

1  証拠(甲五、七、原告本人、被告大森本人)によれば、ひとまず、以下の事実が認められる。

(1) 本件事故現場は、別紙図面(以下、地点の表示はこれによる。)のとおり、ほぼ東西にのびる歩道の設置された片側各一車線(車道幅員各三メートル、東行車線の路側帯〇・七メートル)の道路(以下、「本件道路」という。)とほぼ南北にのびる幅員三・六メートルの道路が交差する信号機の設置されていない交差点の東方である。本件道路東進車両からはやや右カーブとなつていた。本件道路は平坦でアスフアルト舗装された道路であり、速度制限時速四〇キロメートル、追越しのための右側部分はみ出し禁止、駐車禁止の規制がされている。本件事故当時、路面は乾燥していた。

(2) 被告車は、本件道路を東進し、原告車は西進し、それぞれ本件事故現場に至つた。

なお、原告車は西進して本件事故現場西方の前記交差点を右折すれば、亡幸治方へ通じる側道がある。

本件事故現場付近の痕跡は、別紙図面のとおりであり、本件道路西行車線上の<エ>点に血痕跡、<オ>点に原告車が転倒していた。なお、実況見分調書(甲五)にはスリツプ痕等の記載はない(なお、実況見分は本件事故発生後、同日午後九時五五分からなされているにかかわらず、後記損傷状況からすると、破損した部品、ガラス等が本件事故現場に残存していたことは明らかであるが、それらの記載が全くなく採証が不十分というべきである。)。

(3) 本件事故により、亡幸治は脳挫傷等の傷害を負い、これにより死亡した。被告車には、右角バンパー毀損、右前部フエンダー凹損、右前照灯等の損傷が残り、原告車は右カウル破損等右側部分の損傷が激しく、大破したが、先端部、前輪には損傷はない。

以上の事実が認められる。

2  右事実によれば、本件事故は、原告車が前輪をやや左斜方向に向け、衝突を回避しようとした状態で被告車の右前角付近に衝突し、亡幸治の頭部が被告車右前部に激突し撥ね飛ばされたものであることが認められる。

3  ところで、被告大森の実況見分における指示説明(甲五)、本人尋問における供述は、「本件事故前の速度は時速約四五キロメートル程度であり、被告車が<1>点まで来た時、対向西行車線の中央線寄りの<ア>点を対向直進していた原告車のライトに気づいたが、そのまま擦れ違うと思つて進行したところ、<2>点で、原告車が<イ>点から東行車線に進入してきたのを見て危険を感じ、ブレーキをかけたが、<3>点で進行してきた原告車と衝突した。」というものであるところ、被告車に軽四輪貨物自動車を運転して追従していた大田美栄は、司法警察員に対する供述調書(乙二)において「前方約五〇メートルを走行していた被告車のブレーキ灯が点灯しているのが見え、その後黄色の非常点滅灯が点灯した。被告車の後方を同一方向に向け現場まで来たが、被告車は道路中央線を越えては走つていません」と供述するところ、同人は、被告車の後を本件事故現場まで約二キロメートルに渡つて追従して走行し、大村駅付近の踏切を越えてからは、時速約五〇キロメートルの速度で五〇メートル後方を追従していたことも右供述から認められ、これに照らすと、被告車が自車線内を時速五〇キロメートル程度で走行していたとの被告大森の供述は概ね信用することができ、前記道路規制によれば、原告車が中央線を越えて対向して進入して来ることまで予見することは困難であり、さらに、進入してきた原告車との衝突を回避することも道路幅員、被告車の大きさから困難であるというべきである。

原告らの、<1>衝突地点が西行車線である、<2>被告車の速度違反が著しい、との主張はいずれも前記大田美栄の供述調書に照らし採用できない。また、被告車が過積載であり、タコグラフも機能していなかつたことが認められるが(被告大森本人)、右をもつて、本件事故における被告大森の過失を推認することはできない。

4  右認定によれば、本件事故は原告車が中央線を越えて被告車の走行車線に進入してきたため発生したものであり、被告には過失は認められないことになる。また、弁論の全趣旨によれば、被告車には構造上の欠陥又は機能の障害はなかつたことも認められる。

そうすると、被告大森の過失は否定され、被告会社も免責されることになる。

二  右によれば、その余の損害について検討するまでもなく、原告らの請求は理由がない。

(裁判官 高野裕)

交通事故現場見取図

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例